□□□にとって、彼女はいつも
「あの女」である。
「女」と言えばそれは彼女のことなのだ。
しかし、□□□は彼女に愛のような激情は
いっさい感じていなかった。
□□□のような性格の人間に、
愛という衝動が混入すれば、
繊細な実験器具に入ったチリや、
高倍率レンズのひび割れ
などとは比較にならないほど、
壊滅的な結果になるはずだ。
それにもかかわらず、
ひとりの女が、観察機の中にいた。
それが、誉れ高き、謎多き、
「あの女」だったのだ。